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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)462号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人弁護士江草次郎、同真田重二の上告理由第一点について。

原判決の認めた事実によると、訴外植山義三は所論第一目録記載の建物(工場)を同一地番の敷地上の約四、五間西方に牽引して移動させた上、その外部においては、周壁の一部たる腰板を外し、屋根上まで突き抜けてあつた一間角位の空気抜の穴に屋根瓦を葺き、西側入口を拡大し、壁の一部を塗り替え、内部においては、右空気抜を取り去り、階上階下との間仕切をつくり、西南隅階段を東に移した外、屋内便所を屋外東側に移し、又、改装の際生じた古材木等を使つて東側裏に六畳一室位の附属建物を増築した、これが所論第二目録記載の建物(店舗、便所、平屋居宅)であるというのであるから、畢竟、右第二目録記載の建物は社会通念上従前の第一目録記載の建物と同一性を失わないものであるというを妨げない。されば原判決がこれをもつて従前の建物が滅失して新たな建物が築造されたものではなく、右改造された建物は依然従前の建物と同一の建物であると認めたのは正当であつて原判決には右同一性の判断について所論のような社会通念、実験則に違反する違法はない。論旨は理由がない。

同第二点について。

第一目録記載の建物について被上告人が所有権取得の登記をしたことは原審の認定するところである。かような場合に右建物がその後の移築改造等によつて構造坪数等に変更を生じたためその登記簿上の表示と吻合しなくなつた場合においても、右移築改造後の建物が登記簿上の地番と同一の地番に存し且つ右従前の建物との同一性が認められ、従つて又、前記登記簿上の表示が移築改造後の建物の表示と認め得る以上、この建物について有効な登記が存する場合であるというを妨げない。さればこれと同趣旨に出でたと解せられる所論原判示は相当である。所論は移築改造後の建物が従前の建物と同一性を欠き従つてその登記は従前の建物の登記でないという、右と異る主張を前提とするものであつて採用するに足りない。

同第三点について。

原審は上告人の主張に対し移築改造後の建物と従前の建物とは同一性を失わないことを認定した上、所論の権利濫用の主張を肯認すべき事情は認められないとしてこれを排斥したものであること判文上明らかであるから論旨は採用するに足りない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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